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年金に対する不安や不満を解消するために年金カット法案」とは?
2016年末、野党や一部のメディアが “年金カット法案 “と揶揄した
「年金改革法案」が成立しました。この法案は、前回も少し触れましたが、
年金制度の維持・継続のための法案です。
年金制度の持続可能性が危ぶまれているのは、その財政の問題であり、
制度を維持・継続するためには、年金の支給水準を徐々に
下げていかなければならない。当然、「年金改革法案」の
内容もそのようになっています。
したがって、野党や一部のメディアが言うような「年金カット法案」
というレッテル貼りは間違いではない。しかし、
それは法案の一面を表しているに過ぎず、
「なぜそうしなければならないのか」という視点が欠けているのである。
前回、年金制度の構図として「おみこし型」「騎兵型」「肩車型」の
例えを紹介しましたが、現状では「騎兵型」と「肩車型」の間にあり、
支持者は3人しかいません。状況ではありません。
厚生労働省が発表した資料によると、2014年(平成26年)末の
年金受給者数は約6,700万人で、年金受給者数は約3,200万人です。
年金受給者数には、保険料を負担していない
「第3号被保険者(サラリーマンの妻など)」
約930万人が含まれているので、
保険料を負担している人の数は5700万人強となります。
となる。5,700万人が3,200万人を支えているのだから、
すでに1人の高齢者を1.8人程度で支えている構図になる。
つまり、現段階では年金制度は非常に厳しい状況にあります。
ただし、年金制度にはまだ約200兆円(2014年末時点)の
「積立金」があるので、すぐに年金危機が起こるわけではなく、
実際に1.8人で1人の高齢者を支えているわけではありません。
年金積立金は現役世代にそこまでの負担を求めることなく、
バッファーとしての役割を果たしています。
しかし、年金積立金がバッファになっている状況は、
現役世代の負担が足りず、その不足分を年金積立金からの「振替」で
カバーしているので、将来的には楽観的である。
できないということでもあります。
安倍政権になってからの3年間は、アベノミクスによる
株価上昇で積立金の運用益が「移換」を上回ったため、
積立金自体は増えています。
しかし、2015年(平成27年)には5.3兆円の運用損が出ていますので、
楽観視はできませんし、長期的には運用成績が良好な状態が続く保証はありません。
仮に長期的に運用が良好な状態が続いたとしても、少子高齢化の進展に伴い、
積立金からの繰入金額は増加するはずです。
現状では、すでに年金財政が危機的状況にあるということではなく、
将来的にはかなり危機的状況になることが予想されるということです。
年金改革法案」は、年金財政に余裕があるうちに、
長期間かけて年金支給水準を徐々に引き下げることを目的としており、
年金制度の維持・継続のためには避けて通れない法案である。と言えます。
この「年金改革法案」を論じるためには、2004年(平成16年)の
年金改正で導入された「マクロ経済スライド」について触れなければならない。
なぜなら、今回の「年金改革法案」は、”マクロ経済スライド “の
修正法案だからである。
今から12年以上前、2004年(平成16年)に大きな年金改正が行われました。
これは、”安心の100年 “を謳った当時の小泉政権下で行われた年金制度改革です。
社会保険労務士の世界では「2004年改正」と呼ばれています。
2004年改正」の目玉は、長期的に年金支給水準を徐々に下げていく
「マクロ経済スライド」です。しかし、「マクロ経済スライド」は、
デフレ下では実施されないことになっていた。当時の日本経済はすでに
デフレ状態にあったが、その後もデフレは続いた。その結果、
「マクロ経済スライド」は機能不全に陥ってしまった。
そこで、「マクロ経済スライド」を見直す必要が出てきたわけだが、
そのための法案が今回の「年金改革法案(年金カット法案)」である。
したがって、「年金改革法案(年金カット法案)」を理解するためには、
「2004年改正」の「マクロ経済スライド」を理解する必要があります。
マクロ経済スライド」については、次回に説明します。